この記事では、【売主仲介手数料ゼロ円】のからくりについて解説します。
業界の裏側に踏み込んだ話になりますが、お客様に理解しておいて頂いた方が良い内容ですので、長文になりますが、よくある【買主仲介手数料ゼロ円】との違いについても整理しながら、詳しく解説していきます。
◆ 沖縄でよく見かける「売主仲介手数料0円」の広告・・・!?
内地(本土)で不動産売買仲介業務に携わったことのある方が、沖縄の不動産業界で衝撃を受けることの一つに「売主仲介手数料0円」という手法の不動産広告をよく見かけることが挙げられます。
そもそも仲介手数料というのは、法令で上限のみが定められており、不動産の売買(本体)価格が400万円以上の場合は、「不動産の本体価格×3%+60,000円+税」まで受領することが可能とされているため、それ以下でも法令に違反する訳ではありません。
※2024年7月1日の法改正により、売買価格800万円以下の不動産の仲介手数料については、売主・買主双方から一律「30万円+税」まで受領することが可能となりました。
ちなみに、建物に消費税がかかる取引(非住宅や収益物件等)の場合は、建物の消費税分にまで3%を掛けるのは違法なので要注意です。3%を乗じて良いのは、本体価格(税抜部分)のみです。
しかしながら、仲介手数料は、一般的な不動産会社において一番の収益源であり、これが営業活動や従業員の給与の原資となるため、ほとんどの不動産会社は法令で定められた上限額を業務の対価として受領しており、弊社でもよほど特殊な理由がない限りは、この計算に基づいて成功報酬を申し受けています。その分、仲介手数料の金額分、または、それ以上のメリットをお客様にご提供できるように細部まで行き届いたサポートをさせて頂いています。
さて、前述の通り、仲介手数料が企業活動の原資であるにもかかわらず、沖縄では「売主仲介手数料ゼロ円」という手法を繰り広げている企業が何社か存在しています。お客様から手数料を頂けなければ、その企業の利益もゼロであり、会社はいずれ倒産してしまいます。
では、何故そのような手法が成立しているのでしょうか?
法人格を持った「ボランティア団体」ということなのでしょうか・・・?
◆ 買主仲介手数料0円との違いについて
この問題を考えるにあたっては、まず、もうひとつよく見かける「買主仲介手数料無料」との違いについて整理しておく必要があります。こちらも賛否は分かれますが、紹介する物件を限定した上でこの手法を採用している限りは、「買主」手数料0円は、理論上も販売戦略上も有効な手段であり、不動産会社も一定の収益を確保しつつ、よほど杜撰な対応をされない限りは、お客様(買主様)にとってもメリットがあるスキームと言えます。
では、「買主仲介手数料無料」は、どのようなケースで採用することができるのか?
答えは単純ですが、「売主」から仲介手数料を受領できることが確定している物件のみを紹介しているケースです。仲介手数料というのは、「売主」と「買主」のそれぞれから受領できるものなので、売主が「この不動産の買主を見つけてくれた会社には成功報酬として仲介手数料を支払います!」と確約している物件を取り扱う場合、買主側から仲介手数料を受領しなくとも、売主からの売上は確保することができます。物件を選んで採用可能な手法であり、仲介会社の利益も半分になってしまいますが、「買主仲介手数料0円」ビジネスは、合法的に成立しうるものであります。
ただ、注意点としては、下記の2点が挙げられますので、不動産会社選定の際には、ご参考になさってください。
①買主手数料0円を大々的に宣伝している仲介会社は、売主から手数料を受領できる不動産しか紹介してくれないことも多いので、購入する物件の選択肢が狭まってしまう可能性がある点
②他の仲介会社と比較して、報酬額を自ら半分にしていることもあり、その分のサポートやアフターフォローなどが疎かになってしまう傾向がある点
※もちろん全力でしっかり対応してくれる会社も数多く存在しています。
これを踏まえた上で、「売主手数料0円」のからくり(危険性)を考えます。
◆ 売主仲介手数料0円が極めて危険である理由・・・
ここまでの記事を読んで、「売主仲介手数料0円」も「買主」が手数料を支払ってくれることが確定していれば、理論上成り立つのではないかとお考えになる方もいると思います。確かに仲介手数料を支払う買主が既に決まっている状態で、不動産会社が仲介に入るのであれば成立しますが、通常の不動産売買の順序としては、売主の依頼を受けてから買主を探すことが一般的です。
この場合、売却の依頼を受けた仲介会社が自ら買主を見つけることができれば、ビジネスとして成り立ちますが、他の仲介会社が買主を見つけた場合は、売主側の仲介会社は報酬0円で、不動産の調査から売買契約書や重要事項説明書の作成、契約や決済の立会い、引き渡しなどを全てボランティアで行うことになります。
仮に、売主をA、買主をB、売主側の仲介会社をC、買主側の仲介会社をDとすると、Dが登場した時点で、Cのボランティア業務が確定してしまいます。
そのため、Cは絶対にDが現れることを許しません。つまり、「売主仲介手数料ゼロ円」で媒介契約を締結した以上、C社は、他の不動産会社と積極的に連携をしない(できない)というスタンスが確定します。
Cが物件情報をC社という箱(立方体)の中で抱え込んでしまい、他の不動産会社(D社)が買主を紹介しようとしても、Cは「売主から仲介手数料を貰えないので、この物件はD社のお客様へは紹介できません」と断るか、「紹介しても良いが、D社が受領する買主Bの仲介手数料の半額を我がC社に渡してください」と懇願してきます。
せっかく買主を紹介しようとしたD社も、C社に対してBの手数料を半分献上しなければならない物件をわざわざBに紹介しようとは思わず、売主様の知らないところでD社の見込み客への物件紹介の機会を損失しているのです。
また、物件情報を自社で囲い込むことが前提となる手法のため、売主仲介手数料0円を採用してる多くの仲介会社は、他の仲介会社と売主が媒介契約を締結することができないように「一般媒介契約」ではなく、「専任媒介契約」または「専属専任媒介契約」の締結を依頼することが多いですが、これらの専任媒介契約を締結する場合、C社は「レインズ」という不動産会社間の情報ネットワークシステムに物件情報を掲載する義務が法的に生じます。これは、物件の囲い込みを排除し、適正で円滑な不動産取引を担保するための法律です。(一般媒介契約の場合は掲載義務がありません)
レインズに物件情報が掲載されれば、どの不動産会社も自由にその不動産を見込み客に紹介できるようになるのですが、C社はこの掲載義務の法律に関する説明を売主にはせず、レインズにも不動産情報を掲載しません。これはどちらも法律違反なのですが、誠に残念ながら、売主様の知らないところで、このような違法行為が沖縄では蔓延してしまっています。
もちろん「売主仲介手数料ゼロ円」を採用している全ての会社が法律違反をしているとは断言できませんが、この手法を採用している会社がポータルサイトに「専任媒介」「専属専任媒介」として掲載中の物件で、レインズに掲載されている物件を今まで見たことはありません。コンプライアンスの意識が低いこともあってか、このような会社は、違法な電柱広告や無秩序な看板の設置によって、事業の宣伝をしている傾向があるのも特徴のひとつです。
また、Cのような不動産会社は、元々賃貸管理会社やリフォーム会社など、売買が専門外の会社であることが多く、売買仲介業務に対するノウハウや自信の無さから、このような手法を採用している背景があるため、営業社員のスキルやノウハウも低いことが多いです。
つまり、全国に12万社近く(沖縄県で1576社※令和4年度末・国土交通省統計)存在している不動産会社とのネットワークを自ら断ち、売買仲介に自信のないC社単体で、違法に買主を探す行為が前提となっているのが「売主仲介手数料0円」の仕組みということになります。不動産売却時の「無料」という謳い文句によって削減された「3%分」の手数料額より、実際には遥かに多くの損失を売主に与えている可能性が高い手法であるということを十分に理解し、細心の注意を払って頂いた上で、本当にこのような会社に依頼されるのかを冷静にご判断いただくのが賢明と考えます。C社と売主の関係は、「タダより高いものはない」という概念によく似ています。
実際に、レインズを運営している【一般社団法人沖縄県不動産流通機構】からも「売主手数料0円企業」に気を付けるよう勧告する内容の新聞広告が、一般消費者に向けて度々掲載されています。わざわざ広告費を払ってまで注意喚起をしているのです。
もちろん仲介手数料を割引する行為自体が悪い訳ではありませんが、法律に違反したり、お客様を騙したり、売主に不利益を与えるような活動は容認されるべきではないと感じます。もし、前述のような違法行為を確認した場合は、契約の見直し、または、沖縄県土木建築部建築指導課へご相談されることをお勧めいたします。業界の膿を出し切って、沖縄県の健全な不動産事業の発展を心よりお祈りしています。
※追伸
2024年8月29日、遂に、宅地建物取引業法を管轄する国土交通省より、物件の「囲い込み」を行っていることが確認された不動産仲介業者について、2025年1月1日より業務是正指示の対象とするよう改正通達が出されました。
いよいよ国が違法業者に対して本腰を入れ始めました。この改正がきちんと運用されることになれば、違法行為を行っている「売主手数料0円業者」は処分の対象となるか、この営業手法を廃止せざるを得なくなることが想定されます。
一般消費者に不利益を被る営業スキームが一日も早く沖縄から無くなることを願います。